日本人は外国人だから

去年に放送された「学べるニュース」という番組からこのビデオが今日、目に留まった。

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以下番組の録音がある:

ナレーター:今年の四月、アリゾナ州は、移民に関するある法律を作りました。 それは、われわれ日本人にも関係することなのです。

司会者: ここで、州独自の法律が出来ました。 これはですね、外国人は必ず身分証明書を携帯していなければいけない。 警察が職務質問をして、身分証明書を持っていなかったら、逮捕されてしまうと。

タレント(皆): へええ?厳しい!

タレント:日本人が観光で行っても捕まるかもしれない?

司会者:そう、外国人ですから

タレント:そうか?……

外見などから不法移民かどうか職務質問

日本の外国人登録証明書の法律をあまり分からない方のため、以下には金城一紀さんの「GO]という小説からの一つのシーンを載せている。

「どこから歩いてきたの?」

僕が、有楽町です、と本当のことを答えると、若い警官は、そう、大変だったね、と言い、いかにも労をねぎらう様子で頷いた。普通ならここで、それじゃ気をつけて帰りなさい、という展開になるはずなのだけれど、相手もさすがにプロだ。僕の中学時代の残り香を嗅ぎつけたらしく、お得意の質問に移った。

「うちはどこ?」と若い警官が厳しい顔をして、尋ねた。

さて、例えば、ここで僕が住所を言うとする。若い警官は無視で交番に連絡を取り、同僚の警官が住民台帳を見て僕が本当のことを言っているかどうかを調べる。その時、ついでに僕が《在日韓国人》なのも分かる。それを若い警官に伝える。若い警官は僕に尋ねる。「『外国人登録証明書』、持ってる?」。日本には外国人登録法という、『日本に在留する外国人』を管理するための法律がある。管理というと一応聞こえがいいのだが、要するに、「外国人は悪いことするから、首に首輪をつけとこう」という発想の法律だ。僕は日本で生まれて日本で育っているけれど、『日本に在留する外国人』だから、登録を義務づけられていて、当然ながらその証明書も持っている。その「外国人登録証明書」は常に持ち歩かなくてはならないことになっていて、それに違反すると、場合によっては、《一年以下の懲役もしくは禁固または二十万円以下の罰金》を科せられる。要するに、首輪を外した奴には折檻が加えられる、というわけだ。僕は国家に囲われている家畜ではないから、首輪はつけてない。これからもつけるつもりはない。

とにかく、僕は重罪を犯して若い警官の前に立っていた。

金城一紀「GO」角川文庫183-184 より

追放された者の自由

確かにアリゾナ州の新しい法律は厳しいものである。だが、ならば日本は?われわれどこでもある日本人は、日本国籍を持つ限、大丈夫だけれども、しかし、外見から見れば日本人らしくない日本人は?

アリゾナ州と違って、日本では、観光でも、三十年間か四十年間も日本に在留する方でも、日本で生まれ育って、周りの仲間たちと、つまり日本人と同じ空気を吸って、同じ食べ物を食べて育った方でも同じ扱いをされる。ということは、日本における移民・在留外国人に関する法律は確かに厳しいものではないか。

さて、日本人とは、一体何者なんでしょうか?

「GO」の最後のチャプタより

「どうして?」

桜井は何かを言いあぐねている感じで何度かくちを小さく開けては、閉めた。それがどんな言葉であれ、とにかく桜井の声が聞きたかった。僕は、どうした?と優しく言って、桜井を促した。桜井は目を伏せて、言った。

「お父さんに……、子供のころからずっとお父さんに、韓国とか中国の男とつきあっちゃダメだ、って言われてたの……」

僕はその言葉をどうにか体の中に取り込んだあと、訊いた。

「そのことに、なんか理由があるのかな?」

桜井が黙ってしまったので、僕は続けた。

「むかし、お父さんが韓国とか中国の人にひどい目に遭ったとか、そういうこと?でも、もしそれだとしても、ひどいことをしたのは、僕じゃないよ。ドイツ人のすべてがユダヤ人を殺したわけではなかったようにね」

「そういうことじゃないの」と桜井はか細い声で、言った。

「それじゃ?」

「……お父さんは、韓国とか中国の人は血が汚いんだ、って言ってた」

ショックはなかった。それはただ単に無知と無教養と偏見と差別によって吐かれた言葉だったからだ。そのでたらめな言葉を否定することはひどくたやすかった。僕は言った。

「君は――、桜井は、どういう風に、この人は日本人、この人は韓国人、この人は中国人、て区別するの?」

「どういう風にって……」

「国籍?さっきも言ったように、国籍なんてすぐに変えられるよ」

「生まれた場所とか、喋ってる言葉とか……」

「それじゃ、両親の仕事の関係で外国で生まれ育って、外国の国籍を持つ帰国子女は?彼らは日本人じゃないの?」

「両親が日本人だったら、日本人だと思うけど」

「要するに、何人ていうのはルーツの問題なんだね。それじゃ訊くけど、ルーツはどこまでさかのぼって考えるの?もしかして君のひいおじいちゃんに中国人の血が入っていたとしたら、君は日本人じゃなくなる?」

「…………」

「それでもやっぱり、日本人?日本で生まれ育って、日本語を喋るから?それじゃ、僕も日本人ていうことになるね」

「……わたしのひいおじいちゃんに中国人の血が入ってるなんて、ありえないもの」と桜井は少し不服そうに言った。

「君は間違ってるよ」と僕は少し強い口調で言った。「君の『桜井』っていう苗字はね、元々は中国から日本に渡来した人につけられた名前なんだ。そのことは、平安時代に編まれた『新選姓氏録』っていうのにちゃんと載ってるよ」

「……むかしの人には苗字なんてなくて、あとから適当につけたって話を聞いたことがあるけど。だから、わたしの先祖が中国の人だなんて分からないじゃない」

「その通り。君の先祖が桜井家に養子に入った可能性もあるしね。それじゃ、もっと遡ろう。君の家族はお酒が飲めなかったよね?」

桜井はかすかに頷いた。僕は続けた。

「今の日本人の直接の先祖と思われてる縄文人にはね、お酒が飲めない人は一人もいなかったんだ。これはDNAの調査で明らかになってる。というか、むかしのモンゴロイドたちは全員お酒が飲めたんだ。ところが、約二万五千年前の中国の北部で突然変異の遺伝子を持った人間が生まれた。その人は生まれつきお酒が飲めない体質の持ち主だった。そして、いつ頃かは分からないけど、その人の子孫が弥生人として日本に渡来して、お酒が飲めない遺伝子を広めたんだ。君はその遺伝子を受け継いでる。その中国で生まれた遺伝子が交じってる君の血が汚いの?」

沈黙

僕は身動きもせず、桜井の言葉を待った。桜井は長い長いため息をついて、言った。

「本当に色々なことを知ってるのね。でもね、そういうことじゃないの。杉原の言ってること、理屈では分かるんだけど、どうしてもダメなの。なんだか恐いのよ……。杉原が私の体の中に入ってくることを考えたら、なんだか恐いの……」

速かった鼓動が徐々に元のスピードに戻り始め、同時に、ついさっきまで僕の体を重くしていた焦燥感が消え始めた。僕は桜井よりも長い長いため息をついた。

金城一紀 「GO」角川文庫177-179 より

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